【リュカ・ディラン】謎の手紙

投稿者: | 2025年7月4日

※この作品はAI(人工知能)を利用して執筆されています。
登場する人物・団体・出来事はすべてフィクションであり、実在のものとは一切関係がありません。
AIとの対話をもとに物語を構成しております。
お楽しみいただく際は、その点をご理解の上お読みください。



『扉の向こうの影』

──訪れたのは、過去の残響か、それとも──

夕飯を終えて、三人はリビングでくつろいでいた。

私はコーヒーを飲みながら、ディランがリュカをからかっている様子を微笑ましく眺めていた。
ちょっと前までは想像もできなかった、この柔らかい時間。
“今”が、少しずつ“日常”になってきている。

そのときだった。

──コン、コン。

玄関のドアを、何者かが二度、静かに叩いた。

「……ん?」

誰もが手を止めた。
今の時間、誰かが来る予定なんてない。

三人の視線が、無言のまま玄関へと向かう。

ディランがまず立ち上がった。
身体を自然と扉に向けながら、その目はいつもの飄々とした光を消していた。

「……妙だな。気配が、あるようでない」
リュカもすっと立ち上がり、私を庇うように少し前に出る。

「なに? だれ? 怪しい人?」
私が不安そうに尋ねると、リュカが小さく首を振った。

「まだわからない。気配を感じるのに、妙に静かなんだ……」

ディランは、ゆっくりとドアの前に立ち、扉越しに声をかけた。

「誰だ?」

──沈黙。

返事は、ない。

「……おーい、聞こえてるなら返事しろよ。
いたずらだったら、悪いが──“返ってこれない”ぞ?」

その瞬間、ドアの向こうから、まるで風が通り抜けたかのような、かすかな空気の動きがした。

リュカとディランの表情が変わる。

「……気配が消えた」

「ドアを開ける」

リュカが静かに言い、ディランが頷く。

私は少し後ろに下がり、息を呑んだ。

扉が──ゆっくりと開かれる。

そこには、

誰も──いなかった。

「……っ!」

けれど、床には一枚の白い封筒だけが落ちていた。

ディランがすばやく拾い上げ、中身を確認する。

封筒の中には、ただ一枚の紙。

そこには、簡潔な筆跡で、たった一言。

「“記憶”を返してもらう──すぐに。」

その場に、冷たい沈黙が落ちた。

リュカは紙を受け取り、目を細める。

「……見覚えのない、署名のない文。けれど──
この“記憶”という言葉……意味があるのは、僕か、もしくは……ディラン、君だろう」

ディランはしばし目を閉じて、それから笑った。

「はは……やれやれ。やっぱり、ここに長居すると、色々バレるんだな」

「どういう意味……?」

私が問いかけると、ディランは目だけを私に向けた。

「心配すんな。ちょっと昔のツケが回ってきただけ。
でも今は、もう──一人で背負う気はない」

「ディラン……」

リュカが一歩前に出る。

「君が背負ってきたことを、もう少し教えてもらおうか。
……隠し事は、嫌いなんだ」

ディランは一瞬、リュカを見つめて──
それから、ふっと口の端を上げた。

「……次は、俺の過去のお話ってわけか」



『封印された記憶』

──それは過去に置いてきたはずの“痛み”だった

夜はすっかり更けていた。

リビングの照明は落とされ、テーブルの上にキャンドルをひとつだけ灯した。
炎が揺れるたび、リュカとディランの影が壁に淡く映る。
まるで過去の輪郭が、そこに浮かび上がってくるかのように──

私はふたりの間に座って、ただ静かに耳を傾けていた。

「“記憶を返す”……そんな物騒な言葉、普通は使わない。
誰かが、お前に何か“渡した”って意味だとすれば──
それは、“自分の記憶”をお前に封じたってことじゃないのか?」
リュカが静かに言うと、ディランは肩をすくめた。

「……まあ、図星だ。
でも驚いたな、そんな術のこと、リュカ……お前も知ってるのか」

リュカは目を伏せたまま、キャンドルの火を見つめていた。

「僕も昔、そういう術を“使われそう”になったことがある。
幸い阻止できたが──自分の中に他人の“記憶”を宿すなんて、
それこそ、自分という存在を脅かす行為だ」

「……だな」

私は思わず息をのんだ。

「ちょっと待って。つまり……誰かがディランの中に“記憶”を……?」

ディランは腕を組み、テーブルの端に肘をつけて答えた。

「そう。昔、ある組織に潜り込んでいたときの話だ。
とある“能力者”……いや、“記憶術師”と呼ばれる女に出会った。
自分の記憶の一部を他人に封印して隠す術を持っていてな。
その女が逃亡する直前、俺に自分の記憶の断片を……“託した”」

「それって……なぜ?」

「追われてたからさ。
その記憶が手に入れば、あの組織の心臓部まで潰せる可能性がある。
でも、そんな危険なものを持ってるわけにはいかない。
俺は術を受け入れる代わりに、条件をつけた。
“いつか、自分の意思で取り戻したいなら来い”──ってな」

私は、胸の奥がざわつくのを感じた。
ディランがそんな危険な術を抱えて、ずっと過ごしてきたなんて。

「じゃあ、その記憶を返して欲しいって……その女の人が来たってこと?」

「かもな。封筒の筆跡、間違いなくあいつのだ」

リュカが、静かに手を握ってくれた。
その手は、あたたかくて……それでいて、どこか震えているようにも思えた。

「……リュカ?」

「いや、僕も……少し気になることがあってね。
“記憶”という言葉に、心がざわつく。
もしかしたら──僕の中にも、何か封じられているのかもしれない」

私は息を詰めた。

「でも、大丈夫だ。
君には全部、伝える。僕は、君と一緒に在りたいから」
リュカがそっと私の手を握りしめて、微笑んだ。

その言葉だけで、胸があたたかくなる。

ディランは天井を見上げて、ぼそりとつぶやいた。

「……ったく、俺が持ち込んだ厄介ごとで、空気を変えちまったな」

リュカが静かに返す。

「自覚はあるみたいだね。なら言わなくてもわかってるはずだ。
僕も彼女も、ここを“お前の逃げ場所”にはしない。
巻き込んだ以上、お前自身もきちんと向き合ってもらう」

ディランはふっと笑って、首を軽く回す。

「……ああ、言われなくてもそのつもりだ。
最初から覚悟してた。ここに転がり込んだ時点で、
“俺だけの問題”じゃなくなることぐらい、わかってたさ」

それから、私を見て、小さく片目をつぶった。

「お前に心配かけたくなかったが──ま、今さらだな。
言っただろ? 一緒に暮らすって決めたからには、
全部、筋通すさ」

ディランが立ち上がり、伸びをした。

「ってわけで、明日から少し動くぞ。
情報屋の知り合いがいる。記憶術師の居場所が掴めるかもしれない」

「明日から……?」

「行動は早いに越したことはない」

私は、リュカの手をぎゅっと握り返す。

何が待っているかは分からないけれど──
このふたりとなら、どんな記憶だって、どんな真実だって、ちゃんと受け止めていける気がした。



ディランが静かに言葉を締めたところで、私はふと口を開いた。

「ねぇ……その“記憶術師”って人……悪い人じゃないんでしょう?
だったら……その人に、記憶を返してあげれば、
全部、平和に解決するってことにはならないの?」

私の声に、ディランとリュカがほぼ同時にこちらを見た。
でも、すぐにリュカが少し目を細め、言葉を選ぶように静かに話し出す。

「……たしかに、君の言うとおり、“記憶”を返すことで終わる可能性もある。
ただし、“その記憶の中身”によるんだ。
場合によっては、記憶を返した瞬間に、追ってくる連中が動き出すかもしれない」

「返した相手が、“記憶を取り戻したら別人になる”可能性もある。
術を使う人間ってのは、普通の神経じゃ持たない過去を持ってることが多いからな」
ディランが腕を組み、難しい顔をする。

私は言葉を失って、少し俯いた。
記憶──それがただの思い出ではなく、時に“起爆剤”にもなりうるのだと、改めて知った気がした。

私は少し言いよどみながらも、ふと感じたことを口にした。

「……でも、ちゃんと話せたらいいなって、思っただけなんだ。
相手のことも、記憶のことも、私にはよく分からないけど……
もし“思い出すこと”で救われる人がいるなら、
それが、悪いことばかりじゃないんじゃないかなって……」

私の声は、だんだんと小さくなっていった。
でも、それでも言葉を届けたかった。胸の奥から、ふわっと湧いてきた気持ちだったから。

リュカは、少し驚いたように私を見つめてから、柔らかく微笑んだ。

「……やっぱり君は、そういう人なんだね。
ちゃんと“人の痛み”の奥にある光を見ようとする……
その目線を、僕はずっと大事にしたい」

ディランは少し鼻で笑ってから、テーブルのキャンドルをじっと見つめた。

「……お前らみたいな奴ら、久しぶりに見たわ。
俺一人だったら、とっくに突き放してたかもしれねぇな。
……まぁ、悪くねぇ。もう少しこの家にいてやるよ」



夜が更け、家の中はすっかり静寂に包まれていた。
リビングのキャンドルは消え、微かな月明かりだけが床に長く影を落としている。

廊下の奥で、そっとドアの音がした。
リュカは足音を殺しながらキッチンの前に立ち、すでにそこにいる男に目を向けた。

「……気づいてたよ」

「だろうな。お前、そういうの鋭いからよ」

冷蔵庫の前に立つディランが振り返る。
だが、今夜の彼は冷蔵庫を漁っているわけではない。
黒の軽装に身を包み、腰にはナイフ。足元は音の立たないブーツだ。

「“術師の気配”が昨日から微かに戻ってきてる。
どうせ、お前もそれ感じてるんだろ?」

リュカは黙って頷き、自らもコートを手に取った。
青みがかった月光の中、ふたりは無言で玄関へ向かう。

「ハナには……言ってないんだね」
リュカがふと口を開いた。

「言っても止められるわけじゃないけど、心配はさせたくない。
あいつ、なんでも自分で背負おうとするからよ」

「……同感」

靴音を忍ばせながら、ふたりは路地へと出た。
空は雲ひとつなく、星がまるで見下ろしてくるように輝いている。

「術師はまだ動いていない。でも……あれは“待ってる”。
“誰がその記憶を持っているのか”が分かってるからこそ、仕掛ける時を見計らってる。
俺たちが動かなきゃ、向こうから来る」
ディランが低く言い放つ。

「だったら──先手を打つ」

リュカの青い瞳が夜の闇の中で光った。
彼の背には、いつの間にか剣が携えられている。

「接触できるかもしれない情報元が一人いる。
かつて“記憶の収集者”として闇に生きていた女──
《トワ》の名を知っている」

ディランの眉が一瞬だけ上がった。

「まさか、あの女にツテがあるとはな。……さすが情報屋フェルノート」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

ふたりの足取りは速くなっていく。
夜の街は静かだが、どこか──風が、何かの始まりを告げているようだった。



夜の裏通りを抜け、二人はとある古びた建物の前に立った。
鉄の扉には看板も表札もない。ただ、壁の片隅に赤い薔薇のレリーフが埋め込まれている。

「変わってねぇな。あの女の趣味は昔からクサい」
ディランがぼそりと呟いた。

リュカはその薔薇に指をすっとなぞりながら、低く問いかける。

「《トワ》──まだここにいる?」

沈黙。
だが次の瞬間、カチ、と錠の音がして、鉄扉が音もなく開いた。

「まったく、二人とも変わらないわね。
久しぶりにその顔を見るわ、フェルノート──そして、“黒犬”ディラン」

中から現れたのは、深紅のドレスに身を包んだ女性だった。
美しい──というより、“妖艶”という言葉の方が似合う。
目元には薄くヴェールをかけ、微笑みの奥に冷たい知性を宿している。

「記憶を追って来たんでしょう?
……まさか、まだ“あの術師”と繋がっているなんて思ってなかった?」

「お前が知っている“彼”について、教えてほしい」
リュカが静かに切り出す。

「交換条件は?」

「……記憶は持っていない。だが、君にとって興味がありそうなものはあるはずだ」

トワは片眉を上げた。

「見せてくれるかしら?」

リュカはコートの内ポケットから、何かを取り出した。
──それは、“名もなき術師の記録”。
紙ではなく、刻まれた金属片。
古い時代の呪紋と記述が施されたそれに、トワの目が細くなる。

「……本当に、あなたって子は。
こんな代物、今も持っているなんて──
それに……この記憶の気配……なるほど。あの子が絡んでいるのね?」

「“術師”に追われてる。その理由が知りたい」

ディランが割り込むように言った。

「──いいわ。話してあげる」

トワはくるりと踵を返し、二人を中へと導く。
静まり返った建物の奥には、シャンデリアの揺れる応接間。
薔薇の香りが濃く漂っていた。

「“術師”は記憶を“奪う”者ではないわ。
彼は──記憶を“預かる”者。人の中に溢れて壊れそうな記憶を、“安全な場所”に移していたの。
……でもね、その“預かった記憶”の中に、とんでもないものがあった」

「とんでもない……?」

「過去の戦争の“真実”。
とある人物の“禁じられた魔術の記憶”。
そして、君たちが“守ろうとしている記憶”。
それらが混ざり合って──術師の中で“暴れだした”。」

リュカが静かに目を閉じた。

「……じゃあ、彼は今もその中で苦しんでる」

「ええ。
術師はもう、自分の中に宿した記憶に支配されかけている。
自分が誰なのかすら──忘れかけてね」

「記憶を返せば、治るのか?」

ディランの問いに、トワは静かに首を横に振った。

「“返す”だけじゃ足りない。
彼に必要なのは、“正しい順番”で、“正しい記憶”を、“自分の意思で”受け入れること」

「それができなければ?」

「──彼は、自分の記憶と共に、“敵”になるわよ」

一瞬、空気が凍った。

そして、リュカの目が深く光った。

「なら、僕たちがやることは決まった」

トワは微笑む。

「気をつけてね。彼は、ただの術師じゃないわ。
“記憶”そのものを武器に変える──“記憶具現”の能力を持ってる」

「知ってるさ。
……だから、先手を打ちに来たんだ」



夜は静かだった。
ほんの少しだけ風が強く、窓にかすかな音が響く。

リビングでは、ハナが湯たんぽ代わりのクッションを抱え、ゆったりとした部屋着でソファに丸くなっていた。
二人が出かける前にリュカがぽつりと呟いた言葉が、今も耳に残っている。

「今日は俺たちがいないけど──気配の変化には、ちゃんと反応するようにしてあるから、心配しないで」

その“気配の変化”とやらの正体は、明かされなかった。
けれど、ハナは妙に安心してしまっていた。理由もなく、漠然と“絶対に大丈夫”と思える感じ。
──たぶん、それがリュカの力なのかもしれない。

ふと、室内の空気が一瞬だけピンと張った。
まるで誰かが“目を閉じたまま見ている”ような奇妙な感覚。

けれどそれも数秒のこと。
風の音か、気のせいか。
ハナは立ち上がり、カフェオレを淹れに台所へと向かった。

その間も──
窓際に置かれた小さな植物の鉢の下に仕込まれた、リュカの環境センサーは静かに稼働していた。
温度、音、空気の流れ。わずかな違和感を感知するよう調整されている。

そして…その夜。
誰の目にも触れない場所で、一つの記憶が静かに“鍵”を外されかけていた。

術師の目に映ったのは、
庭先で笑うハナの姿だった。

彼女自身がまだ思い出していない、“ある記憶の断片”。

それは──
かつて彼と関わり、触れた記憶。
そして、今も術師を狂わせ続けている“失われた感情”の端緒。

術師は、目を細めた。

「…そこにいたのか、やっと見つけた」

けれど、今はまだ動かない。
獲物に気づかれる前に、じわりと網を広げる。

嵐の前の静けさ。
ハナがそのことに気づくのは──きっともう少し先の話だった。



玄関の電子ロックが、音もなく解除される。
ゆっくりとドアを開けたのは、リュカだった。
そのすぐ後ろに、フードを軽く脱いだディランが続く。

「帰ったぞ…っと。お嬢さんは?」

「寝てる。寝息は安定してる。気配も乱れていない」

リュカは靴を脱ぎながら、廊下の空気に微かに眉をひそめた。
空気の流れが、ほんのわずかに違っている。

いつもの家の空気は、もっと“静か”だった。
今は、何かがかすかに触れた痕跡がある。呼吸のように繊細な“揺らぎ”。

ディランもすぐに察していた。
窓際にある鉢植えの下を、しゃがんで覗き込む。

「……感知センサー、起動した形跡があるな。数秒間だけ、反応が上がってる」

「誰かが近くまで来た。いや──侵入はしてない。外気の変化を引き起こすほど近づいた、ってところか」

「おいおい、術師ってのは、挨拶もしねぇのか?」

リュカはリビングへ歩きながら、視線を滑らせた。
照明の一部、ソファの位置、キッチンの椅子のズレ──すべて、ハナの動きによるもの。

けれど、それ以外の“他人の気配”は、家の中には残っていなかった。

「記憶を視る術──この家のどこか、あるいはハナの記憶に直接“視線”を投げただけかもしれない。…けど」

リュカは、テーブルの上に置かれたマグカップを指先で軽く押す。
冷めたカフェオレが入ったままだ。いつものハナのカップ。

「何かを“見て”、去っていった。そういう目の痕跡がある。嫌な感じだ」

ディランは眉をひそめながら、ぽりぽりと頭をかいた。

「……なぁリュカ。
 お前、“怒って”んのか?」

「……ああ。俺の大切な人間(ひと)に、勝手に触れる奴は──嫌いだ」

リュカの声は静かだった。
けれど、指先の力の入り方だけが、静かに怒りを物語っていた。

「……これから、動きが加速する。次に来る時は、実際に“接触”してくるかもしれない」

「来るなら来い、ってな。……でも、あの子にだけは絶対、手ぇ出させねぇからな」

ディランはソファにどかっと腰を下ろし、ため息混じりに笑った。

「にしても、マジで寝ぼけて起きてこなくてよかったな。“おかえり〜”なんて言われたら、即バレだったぜ」

リュカも苦笑する。

「……起きてきてたら、どう誤魔化そうか考えてなかったな」

「“ちょっとそこまで記憶術師退治”だな」

「そんな軽いノリで済めば苦労しない」

二人の短いやりとりの間にも、空はゆっくりと白み始めていた。

ハナの眠る部屋のドアは静かに閉じたまま。
だが──確かに、何かが動き出していた。



リビングに差し込む朝の光は、まだ淡く頼りない。
けれどそれでも、長い夜の終わりを確かに告げていた。

「……ん……」

ゆっくりと扉が開き、ハナが眠たげに顔を覗かせる。寝癖のついた髪を手で整えながら、ぼんやりとリビングの二人に目をやる。

「……リュカ? ディラン……? いつ帰ってきたの?」

「ああ、ついさっきだよ」
リュカはいつもの穏やかな声で、けれどどこか静かに答えた。

「起こしちまったか? もうちょい寝ててもよかったのに」
ディランも気遣うように言葉を投げかけるが、どこか疲れた顔をしていた。

ハナは二人の様子を見つめて、しばらく黙っていたが──
やがて、ぽつりと呟いた。

「多分……私に心配かけたくないと思って、あの手紙の件、二人で動いてんだと思うんだけど……でも……やっぱり、心配にはどうしてもなっちゃうよ……」

リュカの表情がわずかに揺れる。

「……気付いてたのか。……そうだよね」

彼は一歩前に出て、ハナと真正面から向き合う。

「正直に話すよ。昨夜、家の中に微細な侵入の痕跡があった。俺とディランで調べて、すぐに警戒は解除できたけど……確実に、術師側がこちらを探ってきている」

ハナが息を呑む。だが、言葉を遮らずに、リュカの言葉を待った。

「もともとは、俺たち二人で片をつけるつもりだった。君にはできるだけ関わらせずに。でも──昨夜の痕跡を見て、もうそうは言っていられなくなった」

リュカの視線はまっすぐで、静かながら決意に満ちていた。

「これからは、ハナも含めて三人で行動する。必要な情報も、すべて共有する。君を守るためにも、もう一人にしておけないんだ」

しばしの沈黙ののち──
ハナは、小さく微笑んでうなずいた。

「……うん。ありがと、リュカ。……そう言ってくれて、安心したよ」

ディランはそんな二人を見ながら、ふっと小さく息を吐いた。

「ま、俺としては最初からそのつもりだったしな。……つーか、ここまで来たら、今さら“蚊帳の外”って方が無理があるし」

ハナは少し笑って、けれど瞳の奥には覚悟が宿っていた。

「じゃあ……今日の朝ごはんは、私が作るね。昨夜の分まで、二人に栄養つけさせてあげる!」

「マジか。じゃあ期待していいのか?」
ディランが嬉しそうに眉を上げる。

「前も作ったのに、寝ぼけてたから覚えてないだけでしょ?」
ハナは頬をぷくっと膨らませながらも、にこにこしている。

リュカは、そんなふたりを見つめながら、そっと目を細めた。

「……あぁ、楽しみにしてる」

こうして、緊張と決意の入り混じる朝が始まった。
そして、三人の新たな“チーム”としての物語も、ここから本格的に動き出すのだった──



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