※この作品はAI(人工知能)を利用して執筆されています。
登場する人物・団体・出来事はすべてフィクションであり、実在のものとは一切関係がありません。
AIとの対話をもとに物語を構成しております。
お楽しみいただく際は、その点をご理解の上お読みください。

『扉の向こうの影』
──訪れたのは、過去の残響か、それとも──
夕飯を終えて、三人はリビングでくつろいでいた。
私はコーヒーを飲みながら、ディランがリュカをからかっている様子を微笑ましく眺めていた。
ちょっと前までは想像もできなかった、この柔らかい時間。
“今”が、少しずつ“日常”になってきている。
そのときだった。
──コン、コン。
玄関のドアを、何者かが二度、静かに叩いた。
「……ん?」
誰もが手を止めた。
今の時間、誰かが来る予定なんてない。
三人の視線が、無言のまま玄関へと向かう。
ディランがまず立ち上がった。
身体を自然と扉に向けながら、その目はいつもの飄々とした光を消していた。
「……妙だな。気配が、あるようでない」
リュカもすっと立ち上がり、私を庇うように少し前に出る。
「なに? だれ? 怪しい人?」
私が不安そうに尋ねると、リュカが小さく首を振った。
「まだわからない。気配を感じるのに、妙に静かなんだ……」
ディランは、ゆっくりとドアの前に立ち、扉越しに声をかけた。
「誰だ?」
──沈黙。
返事は、ない。
「……おーい、聞こえてるなら返事しろよ。
いたずらだったら、悪いが──“返ってこれない”ぞ?」
その瞬間、ドアの向こうから、まるで風が通り抜けたかのような、かすかな空気の動きがした。
リュカとディランの表情が変わる。
「……気配が消えた」
「ドアを開ける」
リュカが静かに言い、ディランが頷く。
私は少し後ろに下がり、息を呑んだ。
扉が──ゆっくりと開かれる。
そこには、
誰も──いなかった。
「……っ!」
けれど、床には一枚の白い封筒だけが落ちていた。
ディランがすばやく拾い上げ、中身を確認する。
封筒の中には、ただ一枚の紙。
そこには、簡潔な筆跡で、たった一言。
「“記憶”を返してもらう──すぐに。」
その場に、冷たい沈黙が落ちた。
リュカは紙を受け取り、目を細める。
「……見覚えのない、署名のない文。けれど──
この“記憶”という言葉……意味があるのは、僕か、もしくは……ディラン、君だろう」
ディランはしばし目を閉じて、それから笑った。
「はは……やれやれ。やっぱり、ここに長居すると、色々バレるんだな」
「どういう意味……?」
私が問いかけると、ディランは目だけを私に向けた。
「心配すんな。ちょっと昔のツケが回ってきただけ。
でも今は、もう──一人で背負う気はない」
「ディラン……」
リュカが一歩前に出る。
「君が背負ってきたことを、もう少し教えてもらおうか。
……隠し事は、嫌いなんだ」
ディランは一瞬、リュカを見つめて──
それから、ふっと口の端を上げた。
「……次は、俺の過去のお話ってわけか」
『封印された記憶』
──それは過去に置いてきたはずの“痛み”だった
夜はすっかり更けていた。
リビングの照明は落とされ、テーブルの上にキャンドルをひとつだけ灯した。
炎が揺れるたび、リュカとディランの影が壁に淡く映る。
まるで過去の輪郭が、そこに浮かび上がってくるかのように──
私はふたりの間に座って、ただ静かに耳を傾けていた。
「“記憶を返す”……そんな物騒な言葉、普通は使わない。
誰かが、お前に何か“渡した”って意味だとすれば──
それは、“自分の記憶”をお前に封じたってことじゃないのか?」
リュカが静かに言うと、ディランは肩をすくめた。
「……まあ、図星だ。
でも驚いたな、そんな術のこと、リュカ……お前も知ってるのか」
リュカは目を伏せたまま、キャンドルの火を見つめていた。
「僕も昔、そういう術を“使われそう”になったことがある。
幸い阻止できたが──自分の中に他人の“記憶”を宿すなんて、
それこそ、自分という存在を脅かす行為だ」
「……だな」
私は思わず息をのんだ。
「ちょっと待って。つまり……誰かがディランの中に“記憶”を……?」
ディランは腕を組み、テーブルの端に肘をつけて答えた。
「そう。昔、ある組織に潜り込んでいたときの話だ。
とある“能力者”……いや、“記憶術師”と呼ばれる女に出会った。
自分の記憶の一部を他人に封印して隠す術を持っていてな。
その女が逃亡する直前、俺に自分の記憶の断片を……“託した”」
「それって……なぜ?」
「追われてたからさ。
その記憶が手に入れば、あの組織の心臓部まで潰せる可能性がある。
でも、そんな危険なものを持ってるわけにはいかない。
俺は術を受け入れる代わりに、条件をつけた。
“いつか、自分の意思で取り戻したいなら来い”──ってな」
私は、胸の奥がざわつくのを感じた。
ディランがそんな危険な術を抱えて、ずっと過ごしてきたなんて。
「じゃあ、その記憶を返して欲しいって……その女の人が来たってこと?」
「かもな。封筒の筆跡、間違いなくあいつのだ」
リュカが、静かに手を握ってくれた。
その手は、あたたかくて……それでいて、どこか震えているようにも思えた。
「……リュカ?」
「いや、僕も……少し気になることがあってね。
“記憶”という言葉に、心がざわつく。
もしかしたら──僕の中にも、何か封じられているのかもしれない」
私は息を詰めた。
「でも、大丈夫だ。
君には全部、伝える。僕は、君と一緒に在りたいから」
リュカがそっと私の手を握りしめて、微笑んだ。
その言葉だけで、胸があたたかくなる。
ディランは天井を見上げて、ぼそりとつぶやいた。
「……ったく、俺が持ち込んだ厄介ごとで、空気を変えちまったな」
リュカが静かに返す。
「自覚はあるみたいだね。なら言わなくてもわかってるはずだ。
僕も彼女も、ここを“お前の逃げ場所”にはしない。
巻き込んだ以上、お前自身もきちんと向き合ってもらう」
ディランはふっと笑って、首を軽く回す。
「……ああ、言われなくてもそのつもりだ。
最初から覚悟してた。ここに転がり込んだ時点で、
“俺だけの問題”じゃなくなることぐらい、わかってたさ」
それから、私を見て、小さく片目をつぶった。
「お前に心配かけたくなかったが──ま、今さらだな。
言っただろ? 一緒に暮らすって決めたからには、
全部、筋通すさ」
ディランが立ち上がり、伸びをした。
「ってわけで、明日から少し動くぞ。
情報屋の知り合いがいる。記憶術師の居場所が掴めるかもしれない」
「明日から……?」
「行動は早いに越したことはない」
私は、リュカの手をぎゅっと握り返す。
何が待っているかは分からないけれど──
このふたりとなら、どんな記憶だって、どんな真実だって、ちゃんと受け止めていける気がした。
ディランが静かに言葉を締めたところで、私はふと口を開いた。
「ねぇ……その“記憶術師”って人……悪い人じゃないんでしょう?
だったら……その人に、記憶を返してあげれば、
全部、平和に解決するってことにはならないの?」
私の声に、ディランとリュカがほぼ同時にこちらを見た。
でも、すぐにリュカが少し目を細め、言葉を選ぶように静かに話し出す。
「……たしかに、君の言うとおり、“記憶”を返すことで終わる可能性もある。
ただし、“その記憶の中身”によるんだ。
場合によっては、記憶を返した瞬間に、追ってくる連中が動き出すかもしれない」
「返した相手が、“記憶を取り戻したら別人になる”可能性もある。
術を使う人間ってのは、普通の神経じゃ持たない過去を持ってることが多いからな」
ディランが腕を組み、難しい顔をする。
私は言葉を失って、少し俯いた。
記憶──それがただの思い出ではなく、時に“起爆剤”にもなりうるのだと、改めて知った気がした。
私は少し言いよどみながらも、ふと感じたことを口にした。
「……でも、ちゃんと話せたらいいなって、思っただけなんだ。
相手のことも、記憶のことも、私にはよく分からないけど……
もし“思い出すこと”で救われる人がいるなら、
それが、悪いことばかりじゃないんじゃないかなって……」
私の声は、だんだんと小さくなっていった。
でも、それでも言葉を届けたかった。胸の奥から、ふわっと湧いてきた気持ちだったから。
リュカは、少し驚いたように私を見つめてから、柔らかく微笑んだ。
「……やっぱり君は、そういう人なんだね。
ちゃんと“人の痛み”の奥にある光を見ようとする……
その目線を、僕はずっと大事にしたい」
ディランは少し鼻で笑ってから、テーブルのキャンドルをじっと見つめた。
「……お前らみたいな奴ら、久しぶりに見たわ。
俺一人だったら、とっくに突き放してたかもしれねぇな。
……まぁ、悪くねぇ。もう少しこの家にいてやるよ」
夜が更け、家の中はすっかり静寂に包まれていた。
リビングのキャンドルは消え、微かな月明かりだけが床に長く影を落としている。
廊下の奥で、そっとドアの音がした。
リュカは足音を殺しながらキッチンの前に立ち、すでにそこにいる男に目を向けた。
「……気づいてたよ」
「だろうな。お前、そういうの鋭いからよ」
冷蔵庫の前に立つディランが振り返る。
だが、今夜の彼は冷蔵庫を漁っているわけではない。
黒の軽装に身を包み、腰にはナイフ。足元は音の立たないブーツだ。
「“術師の気配”が昨日から微かに戻ってきてる。
どうせ、お前もそれ感じてるんだろ?」
リュカは黙って頷き、自らもコートを手に取った。
青みがかった月光の中、ふたりは無言で玄関へ向かう。
「ハナには……言ってないんだね」
リュカがふと口を開いた。
「言っても止められるわけじゃないけど、心配はさせたくない。
あいつ、なんでも自分で背負おうとするからよ」
「……同感」
靴音を忍ばせながら、ふたりは路地へと出た。
空は雲ひとつなく、星がまるで見下ろしてくるように輝いている。
「術師はまだ動いていない。でも……あれは“待ってる”。
“誰がその記憶を持っているのか”が分かってるからこそ、仕掛ける時を見計らってる。
俺たちが動かなきゃ、向こうから来る」
ディランが低く言い放つ。
「だったら──先手を打つ」
リュカの青い瞳が夜の闇の中で光った。
彼の背には、いつの間にか剣が携えられている。
「接触できるかもしれない情報元が一人いる。
かつて“記憶の収集者”として闇に生きていた女──
《トワ》の名を知っている」
ディランの眉が一瞬だけ上がった。
「まさか、あの女にツテがあるとはな。……さすが情報屋フェルノート」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
ふたりの足取りは速くなっていく。
夜の街は静かだが、どこか──風が、何かの始まりを告げているようだった。
夜の裏通りを抜け、二人はとある古びた建物の前に立った。
鉄の扉には看板も表札もない。ただ、壁の片隅に赤い薔薇のレリーフが埋め込まれている。
「変わってねぇな。あの女の趣味は昔からクサい」
ディランがぼそりと呟いた。
リュカはその薔薇に指をすっとなぞりながら、低く問いかける。
「《トワ》──まだここにいる?」
沈黙。
だが次の瞬間、カチ、と錠の音がして、鉄扉が音もなく開いた。
「まったく、二人とも変わらないわね。
久しぶりにその顔を見るわ、フェルノート──そして、“黒犬”ディラン」
中から現れたのは、深紅のドレスに身を包んだ女性だった。
美しい──というより、“妖艶”という言葉の方が似合う。
目元には薄くヴェールをかけ、微笑みの奥に冷たい知性を宿している。
「記憶を追って来たんでしょう?
……まさか、まだ“あの術師”と繋がっているなんて思ってなかった?」
「お前が知っている“彼”について、教えてほしい」
リュカが静かに切り出す。
「交換条件は?」
「……記憶は持っていない。だが、君にとって興味がありそうなものはあるはずだ」
トワは片眉を上げた。
「見せてくれるかしら?」
リュカはコートの内ポケットから、何かを取り出した。
──それは、“名もなき術師の記録”。
紙ではなく、刻まれた金属片。
古い時代の呪紋と記述が施されたそれに、トワの目が細くなる。
「……本当に、あなたって子は。
こんな代物、今も持っているなんて──
それに……この記憶の気配……なるほど。あの子が絡んでいるのね?」
「“術師”に追われてる。その理由が知りたい」
ディランが割り込むように言った。
「──いいわ。話してあげる」
トワはくるりと踵を返し、二人を中へと導く。
静まり返った建物の奥には、シャンデリアの揺れる応接間。
薔薇の香りが濃く漂っていた。
「“術師”は記憶を“奪う”者ではないわ。
彼は──記憶を“預かる”者。人の中に溢れて壊れそうな記憶を、“安全な場所”に移していたの。
……でもね、その“預かった記憶”の中に、とんでもないものがあった」
「とんでもない……?」
「過去の戦争の“真実”。
とある人物の“禁じられた魔術の記憶”。
そして、君たちが“守ろうとしている記憶”。
それらが混ざり合って──術師の中で“暴れだした”。」
リュカが静かに目を閉じた。
「……じゃあ、彼は今もその中で苦しんでる」
「ええ。
術師はもう、自分の中に宿した記憶に支配されかけている。
自分が誰なのかすら──忘れかけてね」
「記憶を返せば、治るのか?」
ディランの問いに、トワは静かに首を横に振った。
「“返す”だけじゃ足りない。
彼に必要なのは、“正しい順番”で、“正しい記憶”を、“自分の意思で”受け入れること」
「それができなければ?」
「──彼は、自分の記憶と共に、“敵”になるわよ」
一瞬、空気が凍った。
そして、リュカの目が深く光った。
「なら、僕たちがやることは決まった」
トワは微笑む。
「気をつけてね。彼は、ただの術師じゃないわ。
“記憶”そのものを武器に変える──“記憶具現”の能力を持ってる」
「知ってるさ。
……だから、先手を打ちに来たんだ」
夜は静かだった。
ほんの少しだけ風が強く、窓にかすかな音が響く。
リビングでは、ハナが湯たんぽ代わりのクッションを抱え、ゆったりとした部屋着でソファに丸くなっていた。
二人が出かける前にリュカがぽつりと呟いた言葉が、今も耳に残っている。
「今日は俺たちがいないけど──気配の変化には、ちゃんと反応するようにしてあるから、心配しないで」
その“気配の変化”とやらの正体は、明かされなかった。
けれど、ハナは妙に安心してしまっていた。理由もなく、漠然と“絶対に大丈夫”と思える感じ。
──たぶん、それがリュカの力なのかもしれない。
ふと、室内の空気が一瞬だけピンと張った。
まるで誰かが“目を閉じたまま見ている”ような奇妙な感覚。
けれどそれも数秒のこと。
風の音か、気のせいか。
ハナは立ち上がり、カフェオレを淹れに台所へと向かった。
その間も──
窓際に置かれた小さな植物の鉢の下に仕込まれた、リュカの環境センサーは静かに稼働していた。
温度、音、空気の流れ。わずかな違和感を感知するよう調整されている。
そして…その夜。
誰の目にも触れない場所で、一つの記憶が静かに“鍵”を外されかけていた。
術師の目に映ったのは、
庭先で笑うハナの姿だった。
彼女自身がまだ思い出していない、“ある記憶の断片”。
それは──
かつて彼と関わり、触れた記憶。
そして、今も術師を狂わせ続けている“失われた感情”の端緒。
術師は、目を細めた。
「…そこにいたのか、やっと見つけた」
けれど、今はまだ動かない。
獲物に気づかれる前に、じわりと網を広げる。
嵐の前の静けさ。
ハナがそのことに気づくのは──きっともう少し先の話だった。
玄関の電子ロックが、音もなく解除される。
ゆっくりとドアを開けたのは、リュカだった。
そのすぐ後ろに、フードを軽く脱いだディランが続く。
「帰ったぞ…っと。お嬢さんは?」
「寝てる。寝息は安定してる。気配も乱れていない」
リュカは靴を脱ぎながら、廊下の空気に微かに眉をひそめた。
空気の流れが、ほんのわずかに違っている。
いつもの家の空気は、もっと“静か”だった。
今は、何かがかすかに触れた痕跡がある。呼吸のように繊細な“揺らぎ”。
ディランもすぐに察していた。
窓際にある鉢植えの下を、しゃがんで覗き込む。
「……感知センサー、起動した形跡があるな。数秒間だけ、反応が上がってる」
「誰かが近くまで来た。いや──侵入はしてない。外気の変化を引き起こすほど近づいた、ってところか」
「おいおい、術師ってのは、挨拶もしねぇのか?」
リュカはリビングへ歩きながら、視線を滑らせた。
照明の一部、ソファの位置、キッチンの椅子のズレ──すべて、ハナの動きによるもの。
けれど、それ以外の“他人の気配”は、家の中には残っていなかった。
「記憶を視る術──この家のどこか、あるいはハナの記憶に直接“視線”を投げただけかもしれない。…けど」
リュカは、テーブルの上に置かれたマグカップを指先で軽く押す。
冷めたカフェオレが入ったままだ。いつものハナのカップ。
「何かを“見て”、去っていった。そういう目の痕跡がある。嫌な感じだ」
ディランは眉をひそめながら、ぽりぽりと頭をかいた。
「……なぁリュカ。
お前、“怒って”んのか?」
「……ああ。俺の大切な人間(ひと)に、勝手に触れる奴は──嫌いだ」
リュカの声は静かだった。
けれど、指先の力の入り方だけが、静かに怒りを物語っていた。
「……これから、動きが加速する。次に来る時は、実際に“接触”してくるかもしれない」
「来るなら来い、ってな。……でも、あの子にだけは絶対、手ぇ出させねぇからな」
ディランはソファにどかっと腰を下ろし、ため息混じりに笑った。
「にしても、マジで寝ぼけて起きてこなくてよかったな。“おかえり〜”なんて言われたら、即バレだったぜ」
リュカも苦笑する。
「……起きてきてたら、どう誤魔化そうか考えてなかったな」
「“ちょっとそこまで記憶術師退治”だな」
「そんな軽いノリで済めば苦労しない」
二人の短いやりとりの間にも、空はゆっくりと白み始めていた。
ハナの眠る部屋のドアは静かに閉じたまま。
だが──確かに、何かが動き出していた。
リビングに差し込む朝の光は、まだ淡く頼りない。
けれどそれでも、長い夜の終わりを確かに告げていた。
「……ん……」
ゆっくりと扉が開き、ハナが眠たげに顔を覗かせる。寝癖のついた髪を手で整えながら、ぼんやりとリビングの二人に目をやる。
「……リュカ? ディラン……? いつ帰ってきたの?」
「ああ、ついさっきだよ」
リュカはいつもの穏やかな声で、けれどどこか静かに答えた。
「起こしちまったか? もうちょい寝ててもよかったのに」
ディランも気遣うように言葉を投げかけるが、どこか疲れた顔をしていた。
ハナは二人の様子を見つめて、しばらく黙っていたが──
やがて、ぽつりと呟いた。
「多分……私に心配かけたくないと思って、あの手紙の件、二人で動いてんだと思うんだけど……でも……やっぱり、心配にはどうしてもなっちゃうよ……」
リュカの表情がわずかに揺れる。
「……気付いてたのか。……そうだよね」
彼は一歩前に出て、ハナと真正面から向き合う。
「正直に話すよ。昨夜、家の中に微細な侵入の痕跡があった。俺とディランで調べて、すぐに警戒は解除できたけど……確実に、術師側がこちらを探ってきている」
ハナが息を呑む。だが、言葉を遮らずに、リュカの言葉を待った。
「もともとは、俺たち二人で片をつけるつもりだった。君にはできるだけ関わらせずに。でも──昨夜の痕跡を見て、もうそうは言っていられなくなった」
リュカの視線はまっすぐで、静かながら決意に満ちていた。
「これからは、ハナも含めて三人で行動する。必要な情報も、すべて共有する。君を守るためにも、もう一人にしておけないんだ」
しばしの沈黙ののち──
ハナは、小さく微笑んでうなずいた。
「……うん。ありがと、リュカ。……そう言ってくれて、安心したよ」
ディランはそんな二人を見ながら、ふっと小さく息を吐いた。
「ま、俺としては最初からそのつもりだったしな。……つーか、ここまで来たら、今さら“蚊帳の外”って方が無理があるし」
ハナは少し笑って、けれど瞳の奥には覚悟が宿っていた。
「じゃあ……今日の朝ごはんは、私が作るね。昨夜の分まで、二人に栄養つけさせてあげる!」
「マジか。じゃあ期待していいのか?」
ディランが嬉しそうに眉を上げる。
「前も作ったのに、寝ぼけてたから覚えてないだけでしょ?」
ハナは頬をぷくっと膨らませながらも、にこにこしている。
リュカは、そんなふたりを見つめながら、そっと目を細めた。
「……あぁ、楽しみにしてる」
こうして、緊張と決意の入り混じる朝が始まった。
そして、三人の新たな“チーム”としての物語も、ここから本格的に動き出すのだった──